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WithYou 〜みつめていたい〜


 

第3章「誤解 戸惑い すれ違い」

 気まずい雰囲気の中、ロムレットに到着するといつも通りの乃絵美が迎えてくれた。

 「いらっしゃい、真奈美ちゃん。おかえりなさい、お兄ちゃん。大志さんもう来られているよ」

 「待っていたぞ同志達!」

  すごい破壊力である。いままで俺と真奈美を取り巻いていた重い空気など一発で吹き飛んでしまった。

 「どうも」

 「こんにちは」

 気持ちが乗ってきた俺と真奈美は、すこしうわずるような声で挨拶を交わした。

 「それでは全員そろったようなので、大志さんお願いします」

 その挨拶が終わるのを見計らって乃絵美が言った。

 「では同志、今日はコミケの説明から始めよう。年に2回行われる世界最大の同人誌即売会、それがコミケだ。あらゆるジャンルが複雑に融合し、一つのハーモニーを醸し出すデリシャスな空間なのだ。ロリコンの列があると思えば、その前にはヤヲイがある。その中にミリタリーや政治を真剣に語ったサークルもある。すなわち、意見と意見が真っ向からぶつかり合う本音の世界!強い物だけが勝ち残れるファンタスティックコロシアムそれがコミケ!その勝ち残った者だけが配置されると言う壁際のサークルはコミケの勝者、すなわち全人類の目標、人類の鏡なのだ!」

 大志がここぞとばかりに、コミケの諸注意や一般常識を話し始めた。昨日に聞いた話と半分ぐらい一緒だったが、あの独特のテンションで聞かされていると、3人ともつっこむことも出来ず、怪しい宗教団体のセミナーを聞きに行った者のように聞き入っていた。

 「で、どうすれば壁になるんだ?」

 「たわけ、そんなに易々と壁になど配置されん!まずは、島と呼ばれるサークルの固まりの中に配置される。もちろん、今回の同志達もそうだ。そこでだ、その島にはジャンルと言われる物がある。まずはジャンルを決めなければならん。同志達には初めてなので難しいかもしれないが、ジャンルによっては怖いジャンルや仲のいいジャンルがあるが、そんな事を考えずに選んでほしい。ジャンル表はこれだ!」

 俺は何気なく聞いただけだったのだが、それに対する大志の反応は想像以上に厳しいものだった。それだけ壁になるということはすごいことなのだろう。しかし、陸上で一番になれなかった今の俺が菜織に認めてもらう事ができるとすれば、それは壁サークルになることしかない。

 ジャンル表から目を上げた真奈美が言った。

 「うーんと、私は旅行のジャンルがいいかな」

 乃絵美は少し控えめに言う。

 「私は、絵が描ければなんでもいいよ」

 いくらかわいくても、俺には魂がある。

 「強いて言えばスポ魂だな」

 強気に言った。

 しかし、俺達の意見などまったく無意味だったことがすぐに分かった。すべてはやはり大志だ、だれも彼の言うことには逆らえない。

 「おお、同志もスポ魂か!しかぁし、ここは女の子の意見を聞いてあげなきゃ男じゃないぞ。ということで、魔女っ娘。それもステッキ系!」

 「魔女っ娘?あの、呪文唱えながら変身するシーンを時間稼ぎのためにふんだんに使う、あれのこと?」

 「さすが同志・真奈美。飲み込みが早い!時代はまさに魔女っ娘。今現在も、『おじゃ魔女どれみ』というすばらしい魔女っ娘が放映中だ!」

 「私、小さい頃あこがれていたんだ。やっぱ、変身しなきゃダメだよね」

 「それは違うぞ、同志・真奈美。。伝説のぴえろ4部作と呼ばれている魔女っ娘シリーズの中でも『パステルユーミ』だけは変身しなかった。しかし志賀真理子だから許せる!誰がなんと言おうと許せるんだ、わかるか同志?」

 「でも、視聴率低くてうち切られ…」

 「言うなぁ!わかっていてもそれは口外してはいけない事実。だんご3兄弟のお兄さんが消えた理由と同じぐらい秘密事項だ。大人の世界はいろいろと厳しいんだよ、わかるか同志?」

 「私も金のリボンつけてみようかな、乃絵美ちゃんのリボンとそっくりだよ」

 大志と真奈美の会話を聞いていると、この世界で生きていけるのか不安になった。なんなんだ、こいつらは?真奈美はミャンマーに行ってなにをしてきたのだ?ミャンマーに行ったことさえ疑わしくなってきていた。それとも、これが普通なのか?乃絵美も実はこうなのか?俺だけが人間じゃない?非国民?極刑?色々な考えが頭の中を駆けめぐった。

 「魔女っ娘なら絵かけるよね」

 どうやら、乃絵美は魔女っ娘には詳しくないようだ。よかった、俺、まとも。

 「俺は全然、魔女っ娘なんてしらんぞ」

 「大丈夫だよ。私と乃絵美ちゃんで考えるから」

 「お兄ちゃんはべたを塗るところから初めて、毎日トーンをカットする練習をしておいてね」

 「仲むつまじい兄弟愛だなぁ」

 大志の言葉につっこむ気力も失せていた。

 結局、そのあとの会議で乃絵美がグラフィック担当、真奈美はグラフィック補助とシナリオ担当となった。俺は、いわゆるぱしり。


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